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海賊二次文自己満足ゾサ風味 黄色いあの子偏愛 管理者:ここのつ
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迷子ときらきらシリーズはずいぶん前に書いたので、一味の人数が少ないです。
雪走りがいたりもします。
でも今後変化するかもしれません。(適当)

オリキャラ注意
時系列交錯注意
気づき始めたロロさんとアホの子サンさん

露天商は言った。
それは、出来損ないだよ。


迷子ときらきら ~青い目の異人さん~


とある島の港裏に海賊船は滑り込む。航海士兼会計士はそれぞれに小遣いを配分し、片手を開いた。
「今回は五日。海賊は金払いの良い客くらいに思ってる暢気な気風らしいけど、絶っっ対油断しない。ってアンタのことだーっ!!!」
ひゅっと通り過ぎたベストの襟首をむんずと掴み怒鳴りつける。馬の耳に念仏ルフィの耳にお説教。視線は街の遥か向こう。首根っこを捕まえられた状態で足が宙を駆っている。
「い~いアンタ、揉め事は絶対御免よ。船番は決めたとおり忘れない。海軍にはくれぐれも、」
「いってきまーすっ!!」
かくして解散。
島の面積の割りに港が大きい。甲板から眺める街はカラフルな屋根がひしめいて、いかにも楽しげだ。交易が盛んらしく街は活気に満ちている。特産があるわけではないが場所がいい。穏やかな海流の分岐点にあり、航路に組み込まれやすい。
遠い海のものが集まり、遠い海に運ばれてゆく。
港は船でいっぱいだ。いろんな肌色のいろんな服装の者が動き回っている。女や子どももいる。
麦わら一味は祭りでもあるのかと目を輝かせたが、そうではなく、これが日常らしい。卸船、仕入れ船、観光船。
街の入り口には「クロスマリナにようこそ」のアーチ。
余所者はすなわち客か商売相手だから、島民の警戒は皆無に等しい。我らが船長が飛び出すのも無理はない。

ゾロは鍛冶屋に行きたかった。金を腹巻に押し込み船から降り立ったところで、「待て」がかかった。
「おい待て、待て待てそこの学習能力ゼロ剣士」
「あぁっ?!」
「どーせ商売道具の手入れに行くんだろ。ウルトラ親切な俺が良いことを教えてやろう。ぜっ・・・」
咥えた煙草をぎしっと噛んで、
「っっっ・・・・・ってぇ辿りつけねーよ!」
「んだとこのぐる眉っ!!」
「ああ、そうだったわね。なんせこの間の三倍は賑やかだわ」
「おいっ」
「俺、タバスコ星の材料仕入れに行くからよ。待ってろ一緒に行ってやる」
「・・・・・・」
威勢良く鍔を鳴らしたゾロだったがどうも分が悪い。ムッとしている間に支度を整えたウソップが降りてきて、よーしゾロ今日は特別に俺の護衛をさせてやろう。
「つくづくこれまでの人生どうしてきたのか不思議だわ」
「あいつ人間じゃねーんだよナミさん」
「あたし、今回は絶対面倒みないからね」
「帰巣本能もない動物以下の迷子まりもがナミさんの手を煩わせるなんて犯罪!!」
船上から聞こえる声に、凶悪さ1.5割増しになった剣士を前に、ウソップは首を振る。
「ゾロおまえ、前回の迷子で借金2倍になってんぞ」

ひとつ前に上陸した島でゾロは迷子になった。
ただの迷子ならよかったが。ゾロは鍛冶屋に刀を出した。そして鍛冶屋がどこにあったのかわからなくなった。
これは困る。預けたのは生憎と雪走。鬼徹のように呼んではくれない。ゾロは探した。三日間。帰船時刻が迫ってくる。その頃には船の停泊場所もすっかりわからなくなっていた。
珍しく、ナミはゾロに案内役をつけなかった。さすがの航海士も思わなかったのだ。いくらゾロとはいえ。
船から僅か50メートルのところにある鍛冶屋を見失うなんて。
迷子中のゾロは仲間より先に海軍に見つかりさんざん揉み合って逃げ回り、当初の出向予定日から三日後、海岸を歩いているところを拾われて船は走った。
以来ゾロはちょっと分が悪い。

ウソップと一緒に鍛冶屋へ行き刀を預ける。ウソップはしっかりと鍛冶屋を記憶した。ゾロだってもちろん記憶した。いつだって記憶している。記憶と現実に齟齬があるだけだ。
2時間後に鍛冶屋の前、と約束をして分かれた。

陽光が眩しい。
この辺りは気候も安定しているという話。暖期と涼期が交互にやってくる。今は暖期。太陽は黄色く、陽射しは鋭いが湿気がないため気温のわりに心地よい。
涼期になると、太陽は白くなり日照時間が少し減る。風は冷たいが毛皮などいらない。
気候は穏やかで内乱もなく外敵も極稀、市場は賑わい人々は笑いながら働く。
ふぁ、とひとつあくび。
赤や青の瓦屋根に切り取られた空は高く、青い。朝食に食べたバターロールみたいな雲が浮いている。
春と秋が交互にくるみたいなものか、とゾロは育った島を思い起こす。さしずめ今は春なのだ。どうりで眠いわけだ。
鍛冶屋の軒下にどかりと座る。頭の後ろで腕を組みお昼ねモード。

「良い街だな」
鍛冶屋までの道中、ウソップは嬉しそうだった。一目でわかる、と。
子どもが辺りを走り回っている。老人が軒下で世間話をしている。商人は、ゾロのような着古したシャツに腹巻の剣士にも、つま先から帽子までビシっと決めた貴族らしい男にも同じように声をかけて売り込む。
病院らしき建物を見つけた。学校らしき建物も見つけた。
ウソップはふと足をとめ、聞きなれぬ鐘の音に耳を傾けた。
「最低限、医者と教師がいりゃぁ、街だ。そんで、病院と学校に誰でも行けるんなら、良い街だ」
彼が命懸けで守った、ふるさとの女を思い出しているのかもしれなかった。

そんなもんかとゾロは思う。
ルフィに誘われてそれはそれは小さな船に乗ってからっちこ、色々な島に上陸した。
ルフィと会う以前にも流れ流れてやってきたのだ。街の匂いを嗅ぎ分ける能力はとっくに身に付いている。
目を閉じてでも歩けるのんべんだらりとした村もあったし、きな臭い匂い紛々の街もあった。農村も漁村も内戦中の街もきらびやかな都会も。
天性の方向感覚の導くままに津々浦々。
ずいぶん立ち寄ってきた。街はひとつとして同じではなかった。が、ウソップみたいな視点で見たことはない。何ゆえか。
ゾロはその地で暮らすことを、生活というものを、考えないからだ。
一所に腰を落ち着ける気が、これっぽっちもないからだ。
ゾロは己の本分さえ見失わない限り、どこででも生きていく自信がある。
そして野望のためには、どこまででも行く覚悟がある。



「なぁノースってどんなんだっ!?」
昨日の昼食後、なかなか島が見えないと腐っていたルフィがサンジに訊ねた。
そういやぁ生まれはノースって言ってたな、とウソップがのってくる。
「どんなんつってもなぁ。あんまし覚えてねんだよ。船に乗るまでの数年っかいなかったし」
洗い物を終えたコックは、シンクにもたれて煙草に火をつける。
「なんせ、あの島がノースブルーにあったってのも島出てから知ったかンな」
「ああ、アホなんだな」
「んだとぉ!?」
「うらぁ!!」
「うるさい!にしてもサンジくん、予想以上の無知ね・・・」
「惚れ直したナミさん!?」
「ポジティブーー!!」

サンジは時々歌をうたう。ジャガイモの皮を剥きながら、キャベツを千切りにしながら、食器を洗いながら。
たいていは鼻歌だが、時々、ゾロの知らない言葉でうたう。
それがノースの古い言葉だと、いつだかロビンから教わった。

「でも生まれた島だろ?ちょっとくらい覚えてんだろ」
「そうだなぁ・・・、寒かったな」
「そうか!寒かったか!雪降ったか!」
「え、雪降るのか!?」
サンジの至極単純な感想に、ルフィが食いつき、チョッパーが身を乗り出す。
「はは、残念、雪は降らねーよ。寒いったって、ドラムと比べりゃへみてーなモンさ。マイナス50℃って、ありゃあ反則だぜ」
「えーなんでだよ。雪はいーんだぞ雪は!降れよっ!」
「知るかっ!俺にゆーなっ」
雪が降らないと聞いてルフィはそれきり興味を失い、雪はいーのになぁチョッパー、とかなんとか言いながら連れ立ってラウンジを出ていった。
「ドラムは高い山があったもんね。あれに冷たい空気がぶつかってどかどか雪が降るのよ」
「さぁっすがナミすわん!そういや、山なんてなかったような気がしてきたっv」
「いい加減な記憶だなぁオイ」
「黙れ鼻。ほらあれだ、アラバスタで砂漠歩いたろ?どっちかっつーと砂漠の夜みたいな感じだっけかなぁ」
ひとつきりの視線はふらふらと自ら吐き出した煙を追う。
やたら風が強くて、寒くて、乾いてて寒くて、海も冷たくて。海が目の前にあんのに、乾いてるって変な感じだよなー・・・
ふ、とこちらを向いて口調を変える。

「俺ぁ、あったかい方が好きだ。なんてったって、レディの服装が素敵だvv」
むほほほ、とサンジは笑った。



目が覚める。
太陽の位置はほとんど変わっていない。半時間か、そのくらいだろう。もうひと眠りできるが、どうしようか。首を鳴らして思案しているとき、ちらりとゾロの視界を掠めた。
光だ、と判断する。
陽光が反射したのか、ある角度で煌いてすぐ消えた。危険な反射ではない。黄色くない。暑くない。例えば、コックが時々使う切子のグラスみたいな。
今まで気づかなかったが、鍛冶屋の斜め向かいに一人の露天商が品物を並べていた。
商人は赤煉瓦にもたれ眠そうに座っている。帽子のやたら広いツバに覆われて顔は見えない。黒い布を敷いてその上に商品を並べているのだが、その一角の何かが、先ほどからしきりとゾロの視界の表面を引っ掻くのだ。
ゾロはのそりと立ち上がる。およそ五歩で近づいて、そして息を呑んだ。

青、蒼、アオ
青の散乱。

小指の先ほどのものから、鶏の卵くらいのものまで、無数の青が転がっている。
研磨されないそのままの断面。透き通った青い石は陽光を乱反射して煌く。
石はどこまでも澄み切っている。
青は明るく淡い。淡いけれど不安定ではない。確固とした存在感を持って、まるで呼吸をするように、輝いている。
「St.アクア」
ひび割れた声だった。露天商は草臥れたツバをちょいと捲ってゾロを見上げる。
「それさ。石の名前だ。キレイだろ」
目付きの悪さでは折り紙付きのゾロである。切れ長の三白眼が上から凝視していたのだ。
本人にその気がなくとも、さぞ恐ろしい顔つきをしていたことだろう。
しかし露天商は、無言で宝石を凝視するむさくるしい剣士に怯える風もない。
どころか、ちょいちょいと手招きする。素直にしゃがみこんだゾロの目の前で、青い石をひとつ摘み上げた。空に透かせば硬質な光がきらりと中空に放たれる。
ゾロは夢中になって目で追った。男は、手にとってみなよ、と笑う。
「あんた船乗りだろう」
そういう露天商も相当長い間海にいたのだろう。
潮焼けした声も肌も、鷹揚なわりに隙のない所作も、海の男のそれだった。帽子の中の顔に傷は見当たらなかったが、たくさんの皺が刻まれている。
「St.アクアは昔から船乗りのお守りだったんだ。これは裸石だが、加工したのもあるよ。指輪やチェーンにしとけば身につけておける」
裸の角張った青を指先で転がしながら、なるほどとゾロは思う。
確かにこれは海の色だ。透き通った深さ。太陽にも負けない存在感。大小の海の欠片だ。
守り石にしたくなるのもわからないではない。
あれを取り、これを翳し、石の上を遊んでいたゾロの指がまたひとつ摘み上げた。
人差し指と親指で輪を作ってきゅっと縮めたくらいの大きさだった。
ゾロはじっと見詰めた。陽光に当てて透かした。掌で転がした。ひんやりとしていた。
「おい、これも、セントなんとかか?」
「ん?ああ、そうだろうな。でも他のとは違うだろ」
それは、出来損ないだよ。
「見な、底の方が濁ってるだろ。不純物が入っちまったんだな。気泡ならキレイなんだ、高く売れる。これぁなぁ、黒くなってほら、光を通さないだろ」
訊ねておきながら、ゾロは半分上の空だった。瞬きも忘れて凝視した。
吸い込まれそうな気がした。石の冷たさがうつったように、なぜか背筋がひんやりした。
知っている、と思った。俺はこれを、知っている。


ロビンから、その歌詞がノースの古語だと教わったのはゾロだけではない。サンジもだった。とても古い言葉だと。
どうりで意味わかんねーわけだ、ロビンの博識を褒め称えながらサンジは言った。意味もわからないまま、知らないうちに丸覚えしていたらしい。
歌詞の意味は聞かなかった。サンジが訊ねなかったから、なんとなくゾロも訊ねなかったし、ロビンも教えなかった。
しばらく、あの歌を聞いていない。



夕方、ウソップと船に戻ると意外なことにナミがいた。
驚いたのは、初日に買い物に出て最終日まで帰らないのが航海士の常だからだ。船番があたったとしてもたいていサンジが代わりを申し出る。ありがとうのキスが目当てだ。
「部屋の片付けしてたら出そびれちゃったのよ。明日から出るわ、悪い!?」
なぜか喧嘩腰でゾロにつっかかってきた。不機嫌な航海士には関わるな、というのはこの船の鉄則だ。
ウソップの戦利品を物色していたらチョッパーが戻ってきた。
「うわおまえ、初日からずいぶん買い込んだな」
「うん、本がな、すごい色々あるんだ!最新の医術のも置いてあってすごいんだ!これはロビンのも混ざってんだけど、あ、ロビンは戻らねーって。そんでな、ドラムのこと書いてある本もみつけたんだ!」
興奮してチョッパーが話すのを本の意味はさっぱりだけれど、なんとなくみんな頷いて聞いて、そうこうしているうちにいつのまにか消えていたサンジが、飯だと叫ぶ。
重点的にナミの給仕をしながら、タイミングよくおかわりをよそう。咥え煙草の煙の行き場を時々手で遮って、レディ限定特製テリーヌでございます、うらチョッパー大食魔人がいねーんだから落ち着いて食え、などと。
ゾロの目はなんとはなしにそれを追う。
邪魔な前髪に隠されない、ひとつだけのそれを。
昼間、蒼い青い石を追った余韻のように。

「逆よ、ゾロ」

ふいにナミの声がした。
「あんたはね、方向音痴になったんじゃないの。方向を理解するようにならなかったの」
「ああ、しらねーよ、そんなも」
ん、と言わないうちにピアスを蹴りが掠める。あっぶねぇ!
「うるせぇクソマリモ!!大人しくナミさんのご高説を賜りやがれっ!!」
「意味わかんねーこと言ってんじゃねーぐる眉!!大体俺は方向音痴じゃねー!!」
サンジはあんぐり口を開け、天を仰ぎ、片手で目を覆った。
あ、とゾロは内心。
隠スナ。
「あああダメだよナミさん!こいつ欠落してんの。自覚がねーの。致命的!」
「んだとてめぇ」
「ああん?やんのか藻類」
「サンジくん、おかわり」
「はいナミさんv」
恭しくロゼを注ぐ。ナミとロビンにしか出さない上等のワイングラスに揺れる。眉尻を下げて締りのない口元で、ハートを象る器用な瞳を、やっぱりゾロは追っている。



「おや、あんた」
「邪魔する」
仏頂面で零すゾロに露天商は肩を竦めて良いよ、と。
その仕草がどこかの誰かに似て見えて、ゾロは盛大に眉間に皺を寄せた。
二日目、ゾロは再び鍛冶屋の向かいにやってきたのである。今度の付き添いはナミとサンジ。いらないというのに、不機嫌なナミに押し切られた。サンジは当然ナミに加勢だ。
サンジとゾロは、言い合ってどつき合ってナミに殴られる。言い合ってどつき合ってナミに殴られる。を繰り返しながら燦々と明るい小道を行く。
鍛冶屋の前まで来ると気が済んだのか、唐突にナミは回れ右。それをサンジがくねくねしたステップで追いかける。
毎日毎日、いい加減飽きないか。報われるとか報われないとか、関係ないらしい。ゾロにはまったくわからない。
鍛冶屋に用はなかったらから、ゾロは斜め向かいにしゃがみこむ。
露天商は、昨日とまったく同じ姿で同じように店を出している。
「変わり者だねあんたも」
ゾロ迷わずひとつのSt.アクアを手にとった。底の濁った、冷たい石。
上部は透明。淡い青に硬質の光。迷いのない直線的な煌き。違うのは、その青が次第に濃くなって沈殿していること。
ゆえに、輝きは、他の石よりもいささか暗い。
青が濃くなって黒く凝縮して、光を吸収してしまうのか。
透明で清廉な上部と暗く重い底部の、不可思議な融合にゾロは魅せられる。
指輪や腕輪になっているものも見たが、こんなふうに濁った石はひとつだけしかなかった。
「そりゃあそうだよ。好き好んで濁った石を仕入れたりはしない。商売だからね」
男はパイプでゾロの耳を示す。ゾロが首を傾げると、引き寄せたパイプで自らの帽子をちょいと持ち上げた。
見れば、男の耳には小さなSt.アクアを加工したピアスが5つ。涼やかな光を放っている。
「キレイだろ」
「あんた、この石だけ扱ってんのか」
何気ない問いに、男はちょっと口を噤み、帽子をかぶりなおす。それから、まぁね、と。
「惚れた女の目に似てた」
「・・・なるほど」
「キレイだろ」
「ああ」
そうだな。

金髪碧眼は何もサンジの専売特許ではない。
この島でも何人か見かけた。髪と目の組み合わせがそろっている者はなかったが。彼の生まれたという島に行けばそれこそ、すれ違うものみな似た髪と目の人間だろう。
かくいうゾロだってずいぶん珍しい組み合わせをしているけれど、探せばいないでもない。たぶん。
金の髪に青い目。
髪は潮と陽に焼けてパサパサと軽く、強い光の下では真っ白く見えたりする。
目はどういうわけか両眼揃うことの少ない。少し光に弱いらしく眩しげに睨んでいたりする。
生まれて数年で島を出て、以来ずっと船上暮らしの、後付けの特徴。


「みんなコックさんみたいだったら、晴れた日は眩しいわね」
「ああロビンちゃん!!キミの髪の方が眩しいよっ知的で高貴な後光が燦々と差してっ」
「サンジくんの頭が知的でないことはよっく知ってるわよ。でも見栄えはするわよねぇ」
レディふたりに褒められて(と、本人は思っている)サンジはめろめろと甘い煙を吐き出している。
「あの島はさ、こんなきんきらの太陽じゃねーモン。もっと薄ぼんやりした太陽だったから、眩しくねーよ」
少なくとも俺は眩しいって思った記憶はねーよ、珈琲のおかわりはいかがですマドモアゼル。
ウソップが抜けても話題は変わらなかった。
ナミは航海士らしい好奇心でサンジのいう島の位置を掴もうと検討したが、何分ヒントが少なすぎる。
サンジは、島の周りに何があるか季節の流れがどうであるかすら覚えてはいない。
愛しの航海士のためにと、お軽い頭をしきりと捻るのだが、叩けばどうせスコンスコンと音がするんだろう。

「えーっとえーっと、海が荒っぽかったな。いつも、ささくれみたいな波が立ってて。風があるから。んで暗い。青くない。まぁ太陽が薄いから当然か」
魚もあんまりいなくって、えーっと・・・。と、上目遣いでナミを伺う。
こいつそのうち記憶を捏造しかねんな、とゾロはお茶を啜りながら眺めている。ナミを満足させるためならホラ話のひとつやふたつやみっつよっつ、ウソップ顔負けのをこねくりだしそうだ。
しかし今のところ、サンジの思い出す情景は航海士に決め手を与えない。
「天気はどうなのかしら。空気が乾いてるんだから晴れた日が多いの」
「え、どうだろ。そうかな。たまには雨も降ったけどな。雪も少しは降ったぜ、積もるほどじゃねーけど。風が強いんだよ」
「それは聞いたわ」
「風が強くて寒いのよね」
「そんで、海が近くて、波が高いだろ。空は白くて近いし。なんつーか。・・・平べったく」
はい?
「だから、海と空の隙間に、平べったくなって住んでるみたいな。風が強ぇから飛ばされないように」
サンジはしきりと両手を動かして平べったさを表現するらしいが、いかんせん言葉が幼稚だ。
ナミやロビンへの賛辞なら立て板に水をしかも滝のごとく流すのに。
いつの間にやらゾロも一緒になってノースの海図を覗き込む。四人、頭を傾げて想像力を働かせるのだが。
ひとしきり身振り手振りをバタバタやった後、サンジは諦めたように煙草を咥えた。
それから今初めて気がついたようにつぶやいた。

「ずいぶん、貧しいトコだったんだな」


生まれる場所は選べない。人も動物も植物も、すべて。
何の因果か偶然が、ともかく生まれ出たそこから自分の生を始めるしかない。
嘆いても羨んでも蔑んでも感謝しても、別に仕様のないことだ。生と死はランダムで平等。
四つの大海に存在する無数の島々。それがどんな場所であろうと生まれたそこから歩き出して、行きたいところへ行くのだ。
だから同情ではない、まして憐憫などではない。

ただゾロは、不思議だと思う。

いつだったか、さみぃ方が良い、とコックが言った。
暇だから、夏島と冬島どっちが好きかみたいな、どうでも良い話をしていたんだろう。
さみぃ方が良い。暑いとすぐに腐っちまうかンな。
そうコックは言った。船上における彼の役割からすれば最もな理由だった。
「腐る前に食えばいーじゃねーかっ!!」
ルフィは自信満々に反論し、メリーの彼方へ蹴り飛ばされていた。
寒いほうが良い。暖かいほうが好き。



三日目にゾロは刀を引き取った。一時間ほど迷ってどうしようかと足を止めたら店の前だったのだ。
「立派な刀だなぁ」
三本差したその足で露店に行くと、男はツバの奥から目を眇めてゾロを見た。
「あんた、ただの船乗りじゃないねぇ」
「あんたもな」
返せば露天商は半月型の口元を歪めた。ゾロは真似るようににやりと口の端を上げる。
確信を持って男に問うた。
「ノースブルーに行ったことはあるか」
「・・・・・・いや」
と落とした否定の返事が肯定だった。
「ノースブルーに行ったことはない。が、ノースの女を攫ったことは、あったよ」

ただの船乗りではない男と、ただの船乗りではなかった男。
けれど、ただの船乗りなんて存在するだろうか。
乗っている船が海賊船だろうと観光船だろうと。世界一の野望を抱く剣士だろうと見習い水夫だろうと。
板子一枚剥がせば地獄。大地から足を切り離し、えら呼吸もできない体で漕ぎ出した者はみな。

「アクアは、キレイだろ」
男は言う。ゾロは黙って、出来損ないと言われた濁りのある石を掌に遊ばせる。
「本物は、もっとキレイだったんだ。肌が抜けるように白くてなぁ。髪はブロンド。波打つブロンド。手も足も腋も、あそこの毛まで見事な金色さ、ふふ」
野卑な言葉で吐き捨てて、しかし下衆なにやつきの欠片も浮かべられず。男は帽子を取った。耳のピアスをひとつはずす。
「一番見事なのは目だった。一目でまいった。惚れたんだ」
小ぶりだが抜きん出て透明度の高い石に口付ける。がさがさにひび割れた唇で不器用にそっと。石が、傷つかないように。
どこまでも透き通った青。こんな目にかかればこっちも透き通っちまって嘘なんかつけない。素っ裸の心臓の裏のその向こうまで見透かされて、受け入れられた。
理不尽に掻っ攫って、勝手に惚れたってのに。
「商品に手ぇつけたんだ、船にはいられねぇよ。逃げて、二人で逃げて逃げて、逃げてるってことを忘れた頃にあっさり死んじまったがね。俺のお守りさ」
そう言って、今度は音だけの慣れたキスをチュっとかました。

昔話に付き合ってくれた礼だと、男は昼飯をわけてくれた。ゾロは迷子ついでに買ったラムをわけてやった。向かい合って交互に瓶を交わす。
「ノースの」
「んん~?」
「ノースの生まれはみんなそんなか」
「どうだかなぁ。あいつは、自分みたいな目は何も珍しくないって可笑しがってたな。村に来たら俺は、浮気どころの騒ぎじゃないだろうから、もう帰らなくていいって、言ってな。恋しかったろうに。ハ」
男の帽子は大きかったから、ゾロはそ知らぬフリでラムを嘗めた。

相変わらずひとつの石を弄びながら。既に指が感触を覚えている。
その女の目が珍しくないのなら、やっぱりアイツはノースの出来損ないなんだろう。だからあんなにアホなんだろう。そんなことを考えた。

青い。空よりは海。南よりは北。暑いよりは寒い。



「あの古語が残っているのはノースでも一部の地方に限られるわ。だから、コックさんの生まれたという島も絞り込めるかもしれない。けれど別に特定する必要はないわね」
蜜柑畑にナミとサンジが、というよりナミにサンジがついていった後、ラウンジのトーンはぐっと下がった。
ロビンの夜に似た濃い目には、確かにゾロやサンジの敵わない知性が宿っている。その目をして浮かべた余裕の微笑がゾロは苦手だ。
「さーな。俺には関係ねー。ナミに教えてやったら喜ぶんじゃねーの」
殊更興味なさげな言い方をしたというのに。
「あら航海士さんだって途中でその気をなくしてたわよ」
「は?」
そりゃあちょっと、思い出そうとうんうん唸ってたアホコックが憐れなんじゃないだろうか。うっかり同情しかけたが、
「突きとめたかったら、まず訊くでしょう、当然」
島の名前。
視線を上げたゾロの前でロビンは静かに椅子を引く。
コーヒーカップをシンクに置いて女部屋に下りていった。

覚えていて言わなかったのかもしれないし、忘れてしまったのかもしれないし。知らなかったのかもしれないわね。
風が強くて寒くて、海が荒くて寒くて、寒くて寒くて。
そんな島。

生まれた場所を、生まれた環境を、悔やむような面子はこの船にはない。
ナミを筆頭にそれがいつどこであるのかさえ知らないでいて、それがどうか?
無傷な人生などありえない。生きていれば別れはあるし、死にかけた回数ならゾロが独走一等だろう。
紆余曲折を経てこの船に乗り込み、紆余曲折を経ても失わない夢に向かって走っている。
足を踏んで、胸を張って、拳上げて。
貪欲に笑う。

ただ、ゾロは不思議だったのだ。

「それは、デキソコナイだよ。だけどアンタは気に入ったんだな」

光を吸収してしまう濁り。例えば痛みや、後悔や、血生臭い現実や無垢な秘密やその混沌。
太陽を知らない、のではなく。太陽の知らない、海底に溜まったグロテスクな澱のようなもの。
寒さに凝って沈殿している。
無自覚な笑みを振りまきながら、瞬くたびに現れるのだ。澄んだ青と眼底の濁り。

「キレイだろ」
「ああ、キレイだ」




「ヘイヘイヘイっ、マリモマンっ!!」
出航の日。
往来でその呼び方はないだろう。うず高い紙袋で顔も見えないのによくこちらがわかるものだ。
面倒くさいゾロがウソップ直伝スピリチュアルアタックを決め込むとすかさず蹴りが襲ってきた。
「くぉらっクソミドリ!!耳まで黴たか!いい度胸だっ!!」
「・・んだよ」
「通りがかりのマリモマンに善行を施させてやろう。持て」
「食材の調達はてめーの仕事だろーが」
「ほーう?ほほーう!?なるほどな。じゃあこいつは俺とナミさんとロビンちゃんで美味しくいただくとしよう」
顎で紙袋をちらりと下げる。どでかい瓶の一本の「吟醸」の文字を見つけては、ぐっと怒りを飲み込むしかなかった。
「いやぁすげーわここの市場。東西南北何でもアリだ。チョッパーが興奮すんのもわかるぜ。青物は出航日じゃねーとと思って朝市行ったらさ、とまんねーのこれがまいったね!」
サンジは上機嫌である。
「おまえ、見ときたい店ねーの?最後の最後で迷子になられちゃ困るから、つれてってやる」
重い物ばかり持たせておいてずいぶんな言い草だが。今夜の一杯を思えばゾロだって気分は悪くない。
「鍛冶屋の、」
「ああっ、おまえバカの一つ覚えにも程があるぜ。ま、いーざんしょ?ついてこい!」
さっさと先に立つ。せっかちなことこの上ない。場所は二日目に行って覚えているらしい。

露天商は初日とまったく同じ格好で座っていた。
ゾロを見つけてにやりと笑い隣の男に気づいてそれを引っ込める。
「そっちじゃねぇ」
ずいずい鍛冶屋に入っていこうとするサンジを制し、露店を示す。サンジは目を剥いた。
「おいおいおい、なんだてめぇイキナシ色気づきやがって!レディに贈り物かマリモのくせにっ!!」
「てめーじゃねーぞエロコック」
「一人でナミさんの気を引こうったってそーはいかねーんだからなケダモノめっ、てウオオっ、すっげーキレーじゃねーか何だこれっ!!」
どかどかと荷を下ろしその場にしゃがみこむ。
露天商は帽子の陰からサンジを一瞥し、
「St.アクア」
と。
「うっひょー、キラキラだなぁ。ナミさんとロビンちゃんのお土産にしよっかなぁ。素敵よサンジくんっお似合いですよナミすわんv」
ハートの煙を吐いて一人芝居をしながら裸石を掻き混ぜる。金髪が陽光を弾く。
ゾロは傍らに突っ立っている。
料理人の、感度のよさそうな骨ばった指が青い石の中に差し込まれる。
視線の先でしかし指は、ゾロの目当てに気づくことはなく、加工品へ移った。
無造作にうち撒かれた何十の石の中から、今では一目で見つけられる。
ひとつだけ、僅かに光度の低いそれ。
すげーなオッサン。アクアは船乗りのお守りなんだ。へ~。
次々に手に取っては翳すサンジの横で、ゾロは一点を見詰める。
指に馴染んだそれ。
「なぁなぁゾロ、これよくねぇ?」
ふっと視線を移した先で、サンジはグラスを持ってゾロを見上げた。

眩む。
それ。
その碧眼。
俺は、知っていたんだずっと。
デキソコナイの青を。

「・・・よくわからん」
「っかーーーっ!これだよ。やだねぇ美意識のねークソ藻類は。オッサンこれもらうぜ、七つな」
「はいよ」
新聞紙に包んでもらったグラスをゾロに持たせ、割るな割るな迷うな着いて来いと捲くし立てて、来たとき同様サンジはさっさと歩き出す。
ゾロはじっと視線を注ぎ込み、案内人に倣う。
「アンタ」
男は座りこんだまま、ツバをちょいと捲ってゾロを見上げる。
「どうせ二束三文だ、おまけにつけようか」
何を、とは聞くまでもなく。
「・・・いや、いい」
「だろうな」
「毎日座り込んで悪かったな」
「なんの」
言った顔は、五日目にして初めて目にする屈託のない笑顔だった。
「良い航海を」
「あんたも、商売繁盛を」
ふたりは薄く笑みを交わす。が、次の瞬間。
「あにやってんだクソマリモー!!乾涸びる前にとっとと歩きやがれっ!!」
「うっせーークソコックっ!!キャベツ握り潰っぞ!」
「レタスだアホンダラ!!」
こらえきれずに肩をゆする露天商の耳元で、ピアスがちりちりと鳴った。



その日、無事に出航したメリー号はノリで宴会になった。
みんなは、サンジの買ってきたグラスで米の酒を呑んだ。もっとも八割はゾロが呑んだ。
酔っ払ったコックは、皿を洗いながら久しぶりにあの歌を口ずさんでいた。
幸せそうな緩んだ顔で、無自覚な愛の言葉を撒き散らしながら。
「おいコック」
「あ~?」
グラスを目の高さに持ち上げる。
「キレーだな」
「おう!てめーもわかるよーになったじゃねーかぁ!」

瞬くたびに現れる澄んだ青と眼底の濁りを、ゾロは満足して、呑み干した。




おわり

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