珈琲煙草はサニー設定です
あと、本文のタイトルの前の数字は、作成番号でなく、言わずと知れたみんなの番号です
麦わら一味以外になったら困るなぁ
さらっと消えてると思います
背伸びして 爪先立って 大風呂敷広げて 精一杯 格好つけて
笑ってね
苦ければ苦いほど効果があるような気がしてたんだ
珈琲を一杯いかが?
もしきみが いやでなければ
ぼくと
珈琲を一杯いかが?
あと、本文のタイトルの前の数字は、作成番号でなく、言わずと知れたみんなの番号です
麦わら一味以外になったら困るなぁ
さらっと消えてると思います
背伸びして 爪先立って 大風呂敷広げて 精一杯 格好つけて
笑ってね
苦ければ苦いほど効果があるような気がしてたんだ
珈琲を一杯いかが?
もしきみが いやでなければ
ぼくと
珈琲を一杯いかが?
07 cofee&jam
「ロビンちゃんは何が好物?」
読書に疲れた目を閉じて、ブルマンブレンドの良い香りを堪能していた。ふっと吐息をついた後、吐息に乗せるようにコックさんは聞いた。計ったようなタイミングひとつに、彼の心遣いを知る。
もっとも、対象は女性に限られるようだが。
「コックさんの作るものは何でもおいしいわ」
そりゃあ愛がこもってるからね、と大きな丸盆を掲げて両腕を広げる。
みかん畑の航海士さんとデッキのメンバーに、今日のおやつを宅配してきたところ。
「とくに好きなものとか、ない?」
もちろん、さっきの回答で彼が満足するとは思わない。
時々コックさんは、傍らの誰かに食べたいものはないかと問う。夕食のメニューを決めかねているときなどに。
誰かといってもクルーは八人きり。さらに船長さんと剣士さんが除外される。答えがわかりきっているからだ。
曰く、「肉」「なんでもいい」
実を言えば、エニエスロビーの一件以前、いや、たった今まで、自分も除外メンバーに含まれていたのである。
それは、ロビンとサンジだけが知っている事実だ。
ロビンが誰かと一緒にいれば、それがナミならもちろん、除外メンバーの船長や剣士であっても、サンジは聞いた。「何か食べたいものはあるか」と。
「肉だ!俺肉が食いてぇ!!」
「てめーはそれしかねーのか!!んで、ロビンちゃんは~?」
「そうね。わたしもお肉が食べたいわね」
「そらみろ!」
「アホ、てめーわかれよロビンちゃんのこの優しさ思いやり、なんて素晴らしいレディなんだ~vv」
という具合。
とてもさり気無く、注意深く、ロビン個人への問いかけは回避されてきたのだ。
たった今まで。
たった今。彼はほんの少し問いかけを変えて投げかけた。
何を食べたいか、ではなく、好きなものは何か、と、ロビンに聞いた。
やっぱりとてもさり気無く、注意深く。
「食材は?」
「余裕たっぷりv種類もいつもよりは多いし。なんなりと」
選ぶほど食材に余裕があるのは良い事だ。コーヒーを含んで間を取る。
「難しいわね」
「難しかねーさ。素材の名前でも、料理名でも。ルフィなんかいっつも肉の一単語だ」
船長さんは、牛も羊も豚も鳥も蛙さえ、一言「肉」と所望する。
剣士さんなら「酒」という。それでもロビンには難しい。
コックさんは少し離れた椅子に腰掛け、失礼マドモアゼル、断って煙草に火をつけた。
長期戦の構え。
彼はプロの料理人だ。工夫を凝らして調理する。味に栄養に見栄えに保存に。切って盛るだけの果物ひとつ手を抜かない。その料理に対してどれもおいしい、では張り合いがないだろう。
けれど今、この問いは、そんなことのためではない。
彼はタイミングを図り、長い時間をかけ、今、ロビンに投げかけたのだ。
だからこそ悩み、言葉に迷う。
「パッと思いつくもんでもさ」
促され考えこんで、ふと衝いて出た。
「ジャムを乗せたパンはあまり好きじゃないわ」
コックさんがこちらを見た。ロビンは少し慌てた。
「ごめんなさい。好きなものじゃないわね」
「イチゴも?ベリーも?イチジクも?」
「ええ」
「オレンジも?」
「・・・ごめんなさいね?」
「バターもダメ?」
「バターは好きよ」
「それは良かった」
大仰に胸を撫で下ろし、料理人はくわえ煙草で一礼する。心得ておきますレディ、でも俺のジャムはおいしいよ?
そんなことは充分知っている。それから彼はたくさん問うた。
ピーナッツバターは?生クリーム入りは?サワークリームは?カッテージチーズは?
ロビンはひとつずつ考えて、好き、とか、あまり、とか答えた。
バターブレッドもホットドッグもフレンチトーストもフルーツサンドもマフィンもすべて、彼の作るものはおいしいのに。
「消去法で生きてきたの。いつも、選択肢はなかったわ」
可能な道を探すことに血眼になっていた。好きなものが何かなんて考えたことがなかった。そんな質問は存在しなかった。
「今は、毎日次から次へと、目の前に並べてくれる。手にとっていくだけで精一杯なの」
これで許してもらえるかしら、と笑いかける。
コックさんは、天井に向けて長く煙を吐いた。向き直って、ひとつ、と言った。
「ひとつ」
立てた指一本。
「訂正するならロビンちゃん。それを消去法とは言わないよ。高貴で勇敢で美しいレディロビンは、もっとも難易度の高い『ポーネグリフ』って選択をしたんだ。そのうち好きなものができたら教えて?」
煙草を消して立ち上がった。
立てた道標一本。
表情は崩れなかったと思う。生き残るために磨いた技だから。それでも顔を手で覆う。
ポーネグリフの探求を選んだ。歴史の真実を知りたかった。並ぶ選択肢は死だけだった。
なのに今。
ポーネグリフの探求と引き換えにすべてを捨てなくてもいいという。
あれもこれも選んで取れという。
甘い人たち。甘くて、厳しい。でも、海賊は欲張りなのがセオリーね。
キッチンから戻ってきた彼に訊ねる。
「コックさんは、何が食べたいのかしら」
彼は淀みなく答える。
「もちろん貴方の食べたいものを、マドモアゼル。コーヒーのお代わりはいかが?」
「いただくわ」
甘く厳しくずるいサニー号のコックさんは、優雅に一礼をした。
おわり
「ロビンちゃんは何が好物?」
読書に疲れた目を閉じて、ブルマンブレンドの良い香りを堪能していた。ふっと吐息をついた後、吐息に乗せるようにコックさんは聞いた。計ったようなタイミングひとつに、彼の心遣いを知る。
もっとも、対象は女性に限られるようだが。
「コックさんの作るものは何でもおいしいわ」
そりゃあ愛がこもってるからね、と大きな丸盆を掲げて両腕を広げる。
みかん畑の航海士さんとデッキのメンバーに、今日のおやつを宅配してきたところ。
「とくに好きなものとか、ない?」
もちろん、さっきの回答で彼が満足するとは思わない。
時々コックさんは、傍らの誰かに食べたいものはないかと問う。夕食のメニューを決めかねているときなどに。
誰かといってもクルーは八人きり。さらに船長さんと剣士さんが除外される。答えがわかりきっているからだ。
曰く、「肉」「なんでもいい」
実を言えば、エニエスロビーの一件以前、いや、たった今まで、自分も除外メンバーに含まれていたのである。
それは、ロビンとサンジだけが知っている事実だ。
ロビンが誰かと一緒にいれば、それがナミならもちろん、除外メンバーの船長や剣士であっても、サンジは聞いた。「何か食べたいものはあるか」と。
「肉だ!俺肉が食いてぇ!!」
「てめーはそれしかねーのか!!んで、ロビンちゃんは~?」
「そうね。わたしもお肉が食べたいわね」
「そらみろ!」
「アホ、てめーわかれよロビンちゃんのこの優しさ思いやり、なんて素晴らしいレディなんだ~vv」
という具合。
とてもさり気無く、注意深く、ロビン個人への問いかけは回避されてきたのだ。
たった今まで。
たった今。彼はほんの少し問いかけを変えて投げかけた。
何を食べたいか、ではなく、好きなものは何か、と、ロビンに聞いた。
やっぱりとてもさり気無く、注意深く。
「食材は?」
「余裕たっぷりv種類もいつもよりは多いし。なんなりと」
選ぶほど食材に余裕があるのは良い事だ。コーヒーを含んで間を取る。
「難しいわね」
「難しかねーさ。素材の名前でも、料理名でも。ルフィなんかいっつも肉の一単語だ」
船長さんは、牛も羊も豚も鳥も蛙さえ、一言「肉」と所望する。
剣士さんなら「酒」という。それでもロビンには難しい。
コックさんは少し離れた椅子に腰掛け、失礼マドモアゼル、断って煙草に火をつけた。
長期戦の構え。
彼はプロの料理人だ。工夫を凝らして調理する。味に栄養に見栄えに保存に。切って盛るだけの果物ひとつ手を抜かない。その料理に対してどれもおいしい、では張り合いがないだろう。
けれど今、この問いは、そんなことのためではない。
彼はタイミングを図り、長い時間をかけ、今、ロビンに投げかけたのだ。
だからこそ悩み、言葉に迷う。
「パッと思いつくもんでもさ」
促され考えこんで、ふと衝いて出た。
「ジャムを乗せたパンはあまり好きじゃないわ」
コックさんがこちらを見た。ロビンは少し慌てた。
「ごめんなさい。好きなものじゃないわね」
「イチゴも?ベリーも?イチジクも?」
「ええ」
「オレンジも?」
「・・・ごめんなさいね?」
「バターもダメ?」
「バターは好きよ」
「それは良かった」
大仰に胸を撫で下ろし、料理人はくわえ煙草で一礼する。心得ておきますレディ、でも俺のジャムはおいしいよ?
そんなことは充分知っている。それから彼はたくさん問うた。
ピーナッツバターは?生クリーム入りは?サワークリームは?カッテージチーズは?
ロビンはひとつずつ考えて、好き、とか、あまり、とか答えた。
バターブレッドもホットドッグもフレンチトーストもフルーツサンドもマフィンもすべて、彼の作るものはおいしいのに。
「消去法で生きてきたの。いつも、選択肢はなかったわ」
可能な道を探すことに血眼になっていた。好きなものが何かなんて考えたことがなかった。そんな質問は存在しなかった。
「今は、毎日次から次へと、目の前に並べてくれる。手にとっていくだけで精一杯なの」
これで許してもらえるかしら、と笑いかける。
コックさんは、天井に向けて長く煙を吐いた。向き直って、ひとつ、と言った。
「ひとつ」
立てた指一本。
「訂正するならロビンちゃん。それを消去法とは言わないよ。高貴で勇敢で美しいレディロビンは、もっとも難易度の高い『ポーネグリフ』って選択をしたんだ。そのうち好きなものができたら教えて?」
煙草を消して立ち上がった。
立てた道標一本。
表情は崩れなかったと思う。生き残るために磨いた技だから。それでも顔を手で覆う。
ポーネグリフの探求を選んだ。歴史の真実を知りたかった。並ぶ選択肢は死だけだった。
なのに今。
ポーネグリフの探求と引き換えにすべてを捨てなくてもいいという。
あれもこれも選んで取れという。
甘い人たち。甘くて、厳しい。でも、海賊は欲張りなのがセオリーね。
キッチンから戻ってきた彼に訊ねる。
「コックさんは、何が食べたいのかしら」
彼は淀みなく答える。
「もちろん貴方の食べたいものを、マドモアゼル。コーヒーのお代わりはいかが?」
「いただくわ」
甘く厳しくずるいサニー号のコックさんは、優雅に一礼をした。
おわり
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